学問のすすめ

【1】学問のすすめ(福沢諭吉)

私は長く慶應で学びましたが,実はまともに福沢先生の著作を読んだことがありません。ですが,ちらと見ただけで,流石に素晴らしいことを書かれています。

本文はこちら。(青空文庫

「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と言えり。

この書き出しは有名なので,皆さん知っていることでしょう。ではこの後,どう続くでしょうか?

(略)されども今、広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥《どろ》との相違あるに似たるはなんぞや。その次第はなはだ明らかなり。

生まれが同じなのに,なぜ結果が違うのかを説明してくれます。

『実語教《じつごきょう》』に、「人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なり」とあり。されば賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとによりてできるものなり。また世の中にむずかしき仕事もあり、やすき仕事もあり。そのむずかしき仕事をする者を身分重き人と名づけ、やすき仕事をする者を身分軽き人という。

(略)

されば前にも言えるとおり、人は生まれながらにして貴賤・貧富の別なし。ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人《げにん》となるなり。

これを読んで,学ぼうという気にならないのはどうかしていると,私は思います。また,ここまで来て最初を振り返ると,「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」は読者の逃げ道をふさぐための前置きに見えてきます。

【2】ランダウの生涯(マイヤ・ベサラプ)(絶版,多くの大学図書館にあり)

ランダウは20世紀最高の物理学者の一人です。ランダウ-リフシッツの理論物理学教程は有名な教科書なので,目にした人も多いかと思います。彼がどのように物理に向き合ったかが記されており,私は学生のころに図書館でこの本に出会って随分と気持ちを入れ替えました。

残念ながら絶版ですが,大学の図書館にあります。博士課程に行こう,という人は是非読むべきだと思いますし,そうでない人にもかなり面白いと思います。訳書故の読みづらさはありますが,それ以上に得るものがあります。

アインシュタインの言葉:『われわれの研究にとって必要なのは,2つの条件である。一つは疲れを知らぬ忍耐力,そして,どれほどたくさんの時間と労力を費やした仕事でも,いつでもそれを捨てることができる心構えである。』(p78)

ランダウの手紙の一節:小話に出てくるほどの厚顔無恥でなければ,自分にふさわしいのは,最も重要な科学的問題だけだなどというような考えは生まれないはずです。私の考えでは,物理学者は自分が最も興味を持つ問題に取り組むべきであり,虚栄心から自分の研究対象を選ぶべきではありません。ばかげた問題,したがって,科学的興味のない問題だけは決してやるべきではありません。(p191)