food_production

食糧生産と消費の関係

必要な知識レベル:中学生程度,大学1年程度(数学)

問題設定

面積Sの牧草地に草が生えている。草が生えている面積をsとする。ここに牛がN頭居る。1頭の牛は,単位時間あたり面積Seの牧草を食べる。牧草は単位時間あたり(S-s)・gの面積だけ生える。

最初に全体に草が生えている状況に牛を連れ込んだ。草が生えている面積sの時間発展はどうなるか。


定常状態の確認(ここまでなら中学生でもできる)

単位時間に食べられて減少する草の量はSe N

単位時間に生えて増加する草の量は(S-s)・g

この二つが釣り合うところが充分時間が経過した後に落ち着く状態であるため,Se N=(S-s)・gが定常状態である。

草が生えている面積sは,

s = S - Se N/g

となる。Se, N, gはどれも正なので,s<Sである。これはもっともらしい。sが負になる解は物理的に意味がない。これは安定になる前に牛が草を食べつくしてしまう事を意味している。


時間発展の計算

草が生えている面積sの時間発展,ds/dtを,問題設定より書き下す。

ds/dt = -Se N + (S-s)g

これが0である,というのが定常状態の条件であり,それが上の節と同じであるのは容易にわかる。

時刻t=0でs=Sという初期値を与え,微分方程式の解を求める。

上の微分方程式を解いて,

s(t)=C exp(-gt) + S - Se N/g

C=Se N /g

を得る。定常状態に向けて指数関数的に近づいていく。


ここから得られる教訓

SがNに比べ充分大きければ,つまり定常状態のs = S - Se N/gが正であれば,牛は定常的に生きていける。

最大数の牛が生息するとき,牧草地は常にほぼ食べきられた状態で,生えるそばから食べていく状況になる。

これ以上牛が増えると餓死する個体が出るだろう。そうするとNが減って,食べ物が確保される。

通常の生物はこのように,エサがある限り増えるので,常に飢えることになる。人間も基本的には同じと考えるのが自然である。食糧生産を改善したらそれで生きていける限界まで人が増えて,常に飢えた人がいる状況になるだろう。その意味でSDGsの「飢餓をゼロに」は達成不能であるはずだ。飢餓をゼロにするためには,食べ物があっても人の数を増やさない,という制御が必須だが,その種の制御は現代の価値観では許容されないだろう。


なお,この問題は小6の息子が作ったクイズである。真面目に答えたらこうなった。(息子は食べつくす場合がある事に気づいていなかった。文章だけで考えると,食べ終わったところに草が生えるのだからいつまでも食べきらない,という考えに反論するのは難しかろう。アキレスと亀の問題と同じ構図である。)